「新リース会計基準」の導入が迫り、多くの中小企業の経理担当者様が「自社にどのような影響があるのか」「会計処理が複雑になるのでは」といった不安や疑問をお持ちではないでしょうか。本記事では、新リース会計基準のポイントを中小企業の視点に絞って、専門用語を避けながら分かりやすく解説します。この記事を最後まで読めば、新基準が導入される背景から、いつから適用されるのか、会計処理が具体的にどう変わるのかといった基本はもちろん、中小企業が実務上の負担を軽減するために活用できる「簡便的な処理」の具体的な要件や注意点まで、体系的に理解できます。結論として、新基準では原則すべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上する必要がありますが、中小企業は一定の要件を満たす「短期リース」や「少額リース」について、これまで通りの簡便な会計処理を継続することが認められています。自社がどの方法を選択すべきか判断するための知識を、Q&Aも交えて詳しく見ていきましょう。
なぜ変わるの?新リース会計基準導入の背景
長年親しまれてきたリースに関する会計処理が、なぜ今、大きな見直しを迫られているのでしょうか。その背景には、会計基準のグローバル化と、より実態に即した財務報告への要請という、大きく2つの理由が存在します。ここでは、新リース会計基準が導入されるに至った経緯を詳しく解説します。
国際的な会計基準IFRSとのコンバージェンス
今回のリース会計基準の変更における最も大きな要因は、IFRS(国際財務報告基準)をはじめとする国際的な会計基準との差異を解消することです。IFRSは、世界中の資本市場で利用される会計基準であり、グローバルに事業を展開する企業や、海外の投資家から資金調達を行う企業にとって、その重要性は年々増しています。
従来の日本の会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類していました。しかし、IFRSではこの分類を撤廃し、原則としてすべてのリースを資産計上する「単一の会計モデル」を採用しています。この差異が存在することで、日本の会計基準で作成された財務諸表とIFRSで作成された財務諸表の単純な比較が困難となり、海外の投資家が日本企業の財政状態を正確に把握する上での障壁となっていました。
そこで、日本の会計基準を国際的な基準に合わせる(コンバージェンスさせる)ことで、国内外の企業間での財務諸表の比較可能性を高め、資本市場の国際的な競争力を維持・向上させることを目指しています。
オフバランス取引の実態を財務諸表に反映させるため
もう一つの重要な背景は、企業の財政状態をより忠実に財務諸表へ反映させることにあります。従来の会計基準では、「オペレーティング・リース」に分類される契約は、貸借対照表(B/S)に資産や負債として計上されませんでした。これを「オフバランス」と呼びます。
しかし、実態として企業はリース物件を使用する権利(資産)を持ち、リース料を支払う義務(負債)を負っています。特に航空機や店舗など、多額のリース資産を利用して事業を行う企業では、オフバランスとなっているリース契約が巨額にのぼり、貸借対照表だけでは企業が抱えるリスクや財政の実態が把握しにくいという問題点が指摘されていました。
新リース会計基準では、この問題点を解消するため、原則としてすべてのリース契約を貸借対照表に資産(使用権資産)と負債(リース負債)として計上(オンバランス化)します。これにより、財務諸表の透明性が向上し、投資家や金融機関などの利害関係者が、より正確な情報に基づいて企業の評価や意思決定を行えるようになります。
| リース分類 | 従来の会計処理 | 新会計基準の会計処理 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | 資産・負債として計上(オンバランス) | 原則としてすべて資産・負債として計上(オンバランス) |
| オペレーティング・リース | 費用処理のみ(オフバランス) |
このように、新リース会計基準への移行は、単なる会計ルールの変更ではなく、日本企業の財務報告の質を国際標準に引き上げ、その透明性と信頼性を高めるための重要なステップなのです。
いつから始まる?新リース会計基準の適用時期と対象企業
多くの企業担当者が最も気になっているのが、「新リース会計基準がいつから始まり、どの企業が対象になるのか」という点でしょう。企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案によると、適用スケジュールは企業の規模によって異なります。自社がいつから対応すべきかを正確に把握し、計画的に準備を進めることが重要です。ここでは、適用時期と対象企業について詳しく解説します。
大企業と中小企業で異なる適用スケジュール
新しいリース会計基準は、すべての企業に一律で強制適用されるわけではありません。特に、上場企業や会社法上の大会社と、中小企業とでは取り扱いが大きく異なります。
原則として、2026年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からの強制適用が予定されています。これは主に、上場企業や金融商品取引法の監査対象企業、そして会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)が対象となります。
一方で、これらに該当しない中小企業については、現時点では強制適用の対象外となる見込みです。中小企業の会計処理の負担を考慮し、「中小企業の会計に関する指針」などに準拠している場合は、当面の間、現行のリース会計処理(賃貸借処理)を継続できると考えられています。ただし、親会社が上場企業である子会社や、会計監査を受けている中小企業などは、新基準への対応を求められる可能性があるため注意が必要です。
適用対象と時期をまとめると、以下のようになります。
| 企業区分 | 適用時期(原則) | 適用の強制性 |
|---|---|---|
| 上場企業・会社法上の大会社 | 2026年4月1日以後開始する事業年度から | 強制適用 |
| 上記以外の企業(中小企業など) | 当面は適用義務なし | 任意適用(※) |
※ただし、会計監査の状況や親会社の方針などにより、実質的に適用が必要となる場合があります。
準備期間を考慮した早期適用について
新リース会計基準への移行には、リース契約の洗い出しやシステム改修など、相応の準備期間が必要です。そのため、原則適用の開始を待たず、準備が整った企業から前倒しで新基準を適用できる「早期適用」が認められています。
早期適用は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能となる予定です。すでにIFRS(国際財務報告基準)を適用している親会社を持つ子会社や、グローバルに事業を展開し、財務諸表の国際的な比較可能性を高めたい企業などが、早期適用を検討するケースとして考えられます。
早期適用を選択する場合、社内の経理体制の構築や会計システムの対応を前倒しで進める必要があります。自社の経営戦略や取引先との関係性を踏まえ、原則適用と早期適用のどちらが最適かを慎重に判断することが求められます。
どう変わる?新リース会計基準による変更の核心
新リース会計基準の導入によって最も大きく変わるのは、リース契約の「借手」における会計処理です。これまでの会計基準では、リースの種類によって資産として計上するか、単なる費用として処理するかが分かれていました。しかし、新基準ではこの区別が原則としてなくなり、ほとんどのリース契約が貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上されることになります。これは、企業の財務状況の実態をより正確に財務諸表へ反映させることを目的としています。一方で、リースを提供する「貸手」の会計処理については、現行のルールから大きな変更はありません。
借手の会計処理 すべてのリースを資産計上
新リース会計基準が適用されると、借手は短期リースや少額リースといった一部の例外を除き、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上する必要があります。これは「使用権モデル」と呼ばれる考え方に基づいています。これまで費用処理のみで済んでいたリース契約も対象となるため、特にオペレーティング・リースを多く利用している企業は、財務諸表に与える影響が大きくなります。
これまでのオペレーティングリースの扱い
これまでの会計基準では、リース契約は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類されていました。
- ファイナンス・リース: リース契約を解約できず、リース料の総額が物件の購入価額とほぼ同等になるような、実質的に資産を購入したのと変わらない取引を指します。この場合、リース物件を資産として、リース料の支払義務を負債として貸借対照表に計上(オンバランス)する必要がありました。
- オペレーティング・リース: ファイナンス・リース以外のリース取引です。コピー機や社用車などの一般的なレンタル契約がこれに該当します。会計処理は、支払ったリース料を賃借料などの費用として損益計算書(P/L)に計上するだけでよく、貸借対照表には資産・負債として計上されませんでした(オフバランス)。
このオフバランス処理は、貸借対照表上の資産や負債を少なく見せる効果がありましたが、投資家などが企業の隠れた債務(リース支払義務)を把握しにくいという課題がありました。
新基準における使用権資産とリース負債
新リース会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別をなくし、すべてのリースを統一的な方法で会計処理します。具体的には、リース契約を開始する際に、以下の2つの勘定科目を貸借対照表に計上します。
- 使用権資産(資産): リース期間中にリース物件を使用する権利を資産として認識します。
- リース負債(負債): 将来支払うべきリース料総額の現在価値を負債として認識します。
この変更により、これまで費用処理のみだったオペレーティング・リースも貸借対照表に計上されることになり、総資産と総負債がともに増加します。結果として、自己資本比率や負債比率といった財務指標に影響を与える可能性があります。
| リースの種類 | これまでの会計処理 | 新リース会計基準での会計処理 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | 資産・負債として計上(オンバランス) | 原則として「使用権資産」と「リース負債」を計上(オンバランス) |
| オペレーティング・リース | 費用として処理(オフバランス) |
貸手の会計処理は大きな変更なし
借手の会計処理が大きく変わる一方で、リース物件を提供する「貸手」側の会計処理については、現行の基準から実質的な変更はありません。貸手は引き続き、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。したがって、リース会社などの貸手企業は、これまで通りの経理実務を継続することが可能です。
中小企業はどう対応する?簡便的な処理の活用がカギ
新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として計上することが求められます。しかし、これは中小企業にとって大きな実務負担の増加につながりかねません。そこで、実務上の負担を軽減するため、一定の要件を満たすリース契約については、従来通りの賃貸借処理(費用計上)を継続できる簡便的な処理が認められています。この簡便法を適切に活用することが、中小企業の対応における最大のカギとなります。
中小企業に認められた簡便法の選択肢
中小企業が選択できる簡便的な処理には、主に「短期リース」と「少額リース」の2つがあります。これらのいずれかに該当するリース契約は、新基準の原則的な会計処理(使用権資産とリース負債の計上)を適用せず、支払リース料を費用として計上するだけで済みます。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
賃貸借処理が継続できる短期リース
「短期リース」とは、リース期間が12ヶ月以内であるリース契約を指します。例えば、繁忙期に数ヶ月だけレンタルするオフィス機器や、1年契約の複合機などがこれに該当する可能性があります。この短期リースの簡便法を適用すれば、資産計上は不要となり、これまで通り支払時に費用として処理することができます。ただし、契約に割安購入選択権(購入オプション)が付与されている場合など、実質的に1年を超えて使用することが明らかなケースは対象外となるため注意が必要です。
資産計上不要の少額リース
「少額リース」とは、リースする資産そのものの価値が低いリース契約のことです。リース料の総額ではなく、その資産を新品で購入した場合の価額で判断します。例えば、PC、タブレット、スマートフォン、オフィス家具といった個々の資産価値が低いものが対象となります。国際的な会計基準(IFRS)では5,000米ドル相当額が例示されていますが、日本の会計基準では具体的な金額は明示されておらず、企業が重要性の観点から自社で基準を設定することになります。この簡便法を適用することで、たとえリース期間が1年を超えていても、資産計上することなく賃貸借処理を継続できます。
簡便法を適用するための要件と注意点
これらの簡便法を適用するには、それぞれの要件を正しく理解し、注意すべき点を押さえておく必要があります。特に、一度適用方針を決定したら、原則として継続して適用することが求められるため、慎重な判断が重要です。主な要件と注意点を以下の表にまとめました。
| 簡便法の種類 | 主な適用要件 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース期間(契約開始日から終了日まで)が12ヶ月以内であること。 |
|
| 少額リース | リース対象となる原資産の価値が、新品価額ベースで少額であること。 |
|
中小企業においては、自社で契約しているリースがこれらの簡便法の対象になるか否かを一つひとつ確認し、会計方針を明確に定めておくことが、新リース会計基準へスムーズに対応するための第一歩となります。
新リース会計基準に関するQ&A
新リース会計基準の導入にあたり、多くの中小企業の経理担当者様が抱えるであろう疑問について、Q&A形式で分かりやすく解説します。実務上のポイントを押さえ、スムーズな移行準備を進めましょう。
現在契約中のリースはどうなるの?
新会計基準の適用開始日より前に契約したリース取引については、原則として、会計基準を遡及して適用する必要があります。これは、過去の財務諸表を新基準で作り直すことを意味し、実務的な負担が非常に大きくなります。
しかし、その負担を軽減するため、簡便的な「経過措置」が認められています。具体的には、適用開始日に、その時点で残っているリース料総額などをもとに「使用権資産」と「リース負債」を計上する方法です。この方法を適用すれば、過去の財務諸表を修正する必要はなく、適用初年度の期首から新基準を適用するだけで済みます。多くの中小企業では、この経過措置を選択することが現実的な対応となるでしょう。
税務上の取り扱いに変更はあるの?
結論から言うと、法人税法におけるリース取引の取り扱いに、現時点での変更はありません。これまで通り、所有権移転ファイナンス・リース取引、所有権移転外ファイナンス・リース取引、オペレーティング・リース取引の区分に応じて税務処理を行います。
そのため、会計上はすべてのリースが資産計上(オンバランス)される一方で、税務上は賃貸借処理が認められるオペレーティング・リースなどが存在し続けることになります。この結果、会計上の利益と税務上の所得に差異が生じるため、法人税の申告時に「申告調整(別表調整)」が必要になるケースが増える点に注意が必要です。会計事務所や税理士などの専門家と連携し、適切な申告調整を行う体制を整えておくことが重要です。
どの勘定科目を使えばいいの?
新リース会計基準では、新たに「使用権資産」と「リース負債」という勘定科目を用いて処理します。これらの科目は、貸借対照表(B/S)において以下のように表示するのが一般的です。
| 分類 | 主な勘定科目 | 表示場所(貸借対照表) |
|---|---|---|
| 資産 | 使用権資産 | 原則として、リース資産の原資産の種類に応じた区分(例:有形固定資産の「機械装置」など)に含めて表示します。注記で区分することも可能です。 |
| 負債 | リース負債 | 決算日の翌日から1年以内に支払期限が到来する部分を「流動負債」に、1年を超えて支払期限が到来する部分を「固定負債」に区分して表示します。 |
仕訳の例としては、リース開始時には以下のようになります。
(借方)使用権資産 XXX円 / (貸方)リース負債 XXX円
その後、リース料を支払うたびに、リース負債の返済と支払利息の計上を行います。
(借方)リース負債 YYY円 / (貸方)現金預金 ZZZ円
(借方)支払利息 AAA円
会社の会計システムがこれらの新しい勘定科目や仕訳に対応できるか、事前に確認しておくことをお勧めします。
まとめ
本記事では、中小企業向けに新リース会計基準のポイントを解説しました。この会計基準が導入される背景には、国際的な会計基準(IFRS)との整合性を図り、これまで貸借対照表に計上されていなかったオペレーティング・リースの実態を財務諸表に正しく反映させるという目的があります。
新リース会計基準における最大の変更点は、借手において、原則としてすべてのリース契約を「使用権資産」と「リース負債」として資産計上する必要があることです。これにより、企業の総資産や負債比率といった財務指標に影響が及ぶ可能性があります。
中小企業にとっては、この会計処理の変更は大きな実務負担となり得ますが、実務上の負担を軽減するための簡便的な処理が認められています。具体的には、契約期間が12ヶ月以内の「短期リース」や、重要性の低い「少額リース」については、従来通りの賃貸借処理を継続することが可能です。自社のリース契約がこれらの要件に該当するかどうかを事前に確認することが、対応の重要なカギとなります。
適用時期はまだ確定していませんが、早期の準備が不可欠です。まずは自社が契約しているすべてのリース契約をリストアップし、会計処理の方針を検討することから始めましょう。不明な点があれば、顧問の会計士や税理士といった専門家へ早めに相談することをおすすめします。